砂漠と緑と白銀の美しいコラボレーションから生まれる、心地良いカナダワイン

この記事では、ワインの常識の「未知」であったり「意外性」をいろいろ紹介してきました。ワインとワインのある場や時間をもっと気軽に楽しむためには、あまり難しい教科書を順番に開くようなお勉強的な記事にはしたくない、という気持ちもそこにはありました。今回、もしかしたら常識を鮮やかにひっくり返すために、少しのお勉強が裏づけにあったほうがより楽しめるというお話になるかもしれませんが、もちろんそこをすっとばしてワインそのものだけでも楽しめますので、ご安心を。

 

ということで今回のテーマは、カナダ。カナダといえばワインの世界の常識でいえば定番は、アイスワイン。とろっとした濃度と糖度の高い甘口ワインとして、ドイツと並び世界的な名声を獲得している逸品です。作り方も難しく、収穫も少ないことからおおむね高価。カナダ土産で見たこと、飲んだこともあるかもしれません。なぜドイツやカナダかといえば、寒い場所だからというのがシンプルなひとつの理由。甘口ワインに適した葡萄が作れるエリアで、かつ糖度を高めるための極寒地域という条件が揃わないとできないということで、メープルシロップと並んでカナダの自然が生んだ、素敵でかけがえのない恵みともいえます。

 

しかし、この「カナダ=寒い=甘口アイスワイン」という常識の一方で、カナダには五大湖周辺、東海岸側のオンタリオ、ケベック、ノバスコシアなどでは、スパークリング、白、赤ワインがちゃんと生産されていて品質的にも充分。特に大西洋岸エリアのスパークリングワインは今後、世界的に評価される可能性も高く、注目したい存在です。

 

そして、西海岸。ここには日照時間も十分で、夏の平均気温ではむしろ名産地として名高く、青空の代名詞ともいえるカリフォルニアのナパバレーよりも高いというエリアがあります。しかもその場所は、カナダというイメージからは似つかわしくないといってもいい乾燥した砂漠地帯。その名はオカナガンヴァレー。実はずいぶん前から北米のワイン好きには知られた存在でした。砂漠地帯といってもロッキー山脈に沿ってメキシコからアメリカ、そしてカナダへと続く砂漠の最北端ということもあり、カナダらしい緑の山々、そしてオカナガン湖のブルーという絵葉書のようなカナダの景勝地でもあります。このエリア内にもいくつかの生産地域があり、それぞれの土壌、気候も違うので、ワイナリーごとのキャラクターも楽しめます。

 

印象に残り、日本でも紹介したいと感じたオカナガンヴァレーのワイナリーが、「ニコール・ヴィンヤード」と「ペインテッド・ロック・エステーと・ワイナリー」。ワイナリーの詳細は今後、僕のブログなどでも紹介するとして秀逸だったのはともに、シラーを使った赤ワイン。

「意外性」を新しい定番に!カナダ生まれの気持ちを軽やかにしてくれる赤ワイン

ニコールのオールド・ヴァインズ・ヴィンヤード・シラーは、「カナダで始めて植樹された」とされるシラーの畑から生まれたワイン。フランスでシラーの名醸造地として知られる北ローヌを思わせるスタンダードなスタイルながら、こちらはどこまでふわっと軽やか。軽やかといっても酸が強いとか逆に腰が弱いとかではなく、きれいでちゃんと飲んだ感がありながら、ふっともれた余韻の息が軽い。例えていうなら朝から続いた雨が上がった夕方、強めの西日から夕焼けへ。向こうには虹。そんなシーンで登場してほしい軽やかさとでもいうのでしょうか。アーティスティックなフィンガーフード、反面、素朴な田舎料理から、ハラペーニョを軽めに使ったシンプルなホットドッグまで、いずれもかしこまったディナーの席ではなく、西日のテラスで仲間や友人、ここから生まれる交流の席、スタンディングにちょうどいい。それでもTシャツよりも襟付きのシャツが似合う、きれいさが嬉しいワインです。

 

ペインテッド・ロックのシラーは、なんとも不思議な美しい混沌。相反する要素が見事に調和しながらも時折その調和からこぼれてくる、心地良い違和感。例えば野生と都会の洗練、山奥の掘っ立て小屋とモダンデザインのヴィラ、インドやマラッカ海峡に見るアジアのエキゾチックなスパイスと、スイスや英国のガーデンに咲き育つ小さくて赤い果実。繊細ながら数日前から抜栓しておいたほうが良さそうな骨太。長い余韻、その余韻に次々と登場する違う表情から、最期はなんともリラックスした気分に。

 

カナダという場所でのワインの可能性。それはカナダ国内でもこれからどんどん議論、浸透していこうかという状況のようです。聞けばカナダで流通するレストランで楽しまれているようなワインは、8割以上が輸入ワイン。それが最近、バンクーバーを中心としこのオカナガンヴァレーがあるブリティッシュ・コロンビア州では、ファインダイニングでカナダワインがオンリストされつつあると聞きます。つまりワイナリーもカナダのガストロノミーとのマッチングも、まだまだこれから成長が見込まれるわけで、このわくわくするような流れにも注目しながら楽しむのも、またワインの面白さ。教科書の1ページからではなく出会ったところが出発。カナダ好きの方はもちろん、楽しくワインの世界を広げたい方にも触れていただきたいワインです。